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Research

ゲノムを守るタンパク質の協調と相分離 

― 安定性維持機構の進化 ― 

Safeguarding the Genome through Protein Cooperation and Phase Separation

― The Evolution of Stability― 

   細胞が分裂してふえるとき、最大の難所のひとつが、染色体を二つの娘細胞へきっちり半分ずつ分け与えることです。ふだん染色体を包んでいる核膜がいったん壊れ、長大なDNAがむき出しになります。これを、もつれさせず、切ってしまうこともなく、きれいに二等分するのは簡単ではありません。進化の過程でゲノムは大きくなり続け、運ぶべき染色体も長大になって、この綱渡りはますます難しくなりました。しかも多細胞生物では、まわりの細胞にぎゅうぎゅうと押されながら、せまい空間でこれをやってのける必要があるのです。

   そこで細胞は、ゲノムの巨大化に合わせて、染色体を正しく分配するためのさまざまな仕組みを進化させてきました。染色体を引っぱる土台となるキネトコア、DNAをコンパクトに折りたたむコンデンシン、分配の足場となる紡錘体。こうした古典的な装置に加えて、私たちが独自に注目しているのが、Perichromosomal Layer (PCL, 染色体辺縁層)です。

   PCLは、相分離によって、分裂期の染色体の表面をおおうように形づくられます。その主役であるKi67というタンパク質は、進化の歴史のなかで脊椎動物になって初めて登場しました。さらに面白いことに、魚からヒトへと進化するなかで、その姿を大きく変え続けています。

このテーマで私たちは、PCLがゲノムを守るためにどのように進化してきたのかを、生物物理学・物理化学・ソフトマター物理学、バイオインフォマティクスといった多彩な視点と技術を組み合わせて解き明かしていきます。

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増殖マーカーKi-67の謎を解く 

― PCLが染色体とアクチン皮層をつなぐ

Decoding the Proliferation Marker Ki-67

― How PCL Links Chromosomes and the Actin Cortex

 Ki-67は、細胞増殖の目印として、基礎研究から臨床のがん診断まで世界中で使われてきました。盛んに分裂している細胞ほどKi-67を多くもつ――この経験則は長く医療を支えています。しかし、なぜKi-67が増殖の良い目印になるのか、その分子レベルの理由は今もよくわかっていません。

 このKi-67こそ、私たちが注目するPerichromosomal Layer(PCL, 染色体辺縁層)の主役です。PCLは、分裂期にむき出しになった染色体の表面をおおい、もつれや絡まりから物理的に「守る」はたらきをもっています。しかし私たちは、その役割がそれだけにとどまらないことを見出しました。PCLは染色体を守る盾であると同時に、細胞の表層を裏打ちするアクチンの骨格(アクチン皮層)の性質を、積極的につくり変えていたのです。

 その鍵をにぎるのが、タンパク質のリン酸化と脱リン酸化――スイッチのように機能を切り替える生命の基本原理です。これによってPCLは、二重の「盾」でゲノムを守っていると考えられます。ひとつは染色体の表面を直接おおう内側の盾、もうひとつは、染色体から遠く離れた細胞表層にアクチン皮層をつくり変えて生み出す外側の盾です。内と外の盾が呼応し、むき出しの染色体は二重に守られているのです。

 この二重の守りこそ、増殖マーカーとしてのKi-67と細胞のふるまいを結ぶ「失われた環(ミッシングリンク)」ではないか。私たちはいま、なぜKi-67が増殖の目印になるのかという長年の謎を、細胞生物学・生化学・生物物理学の知識と技術を組み合わせて解き明かしつつあります。

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相分離が生む細胞内の秩序 

― コンデンセートを操る化学反応

Order from Phase Separation

― The Chemistry that Shapes Biomolecular Condensates

 細胞の中は、無秩序な分子のスープではありません。さまざまな反応が、適切な場所で、適切なタイミングで進むよう、細胞は内部をいくつもの「区画」に仕切っています。その代表が、膜で囲まれたオルガネラ――核やミトコンドリアなどです。ところが近年、膜をもたないのに区画として機能する構造が次々と見つかってきました。

 その形成原理として一躍脚光を浴びたのが、液-液相分離です。水と油が分かれるように、特定の分子どうしが寄り集まって液滴をつくる――この現象によって、膜のない「区画」、すなわち非膜オルガネラ(生体分子コンデンセート)が生まれます。しかし、細胞の中で多種多様なコンデンセートがどのように形づくられ、融合し、また離れていくのか、その仕組みはいまだ多くが謎のままです。

 私たちは、この謎にタンパク質のリン酸化という切り口で挑んでいます。リン酸化とは、タンパク質にリン酸基を付け外しして機能を切り替えるしくみで、そのリン酸基を供給するのが、生命のエネルギー通貨であるATPです。ATPが加水分解されてADPと無機リン酸に分かれる反応は、単にエネルギーを取り出したり、タンパク質の機能を変化させるためだけのものではありません。それは同時に、コンデンセートの内部という局所的な環境を化学的に変化させる、重要な反応でもあるのです。さらにその影響は内部にとどまりません。反応で生まれた生成物がコンデンセートから周囲へ漏れ出すことで、その外側の環境までも変化させていきます。

 このテーマで私たちは、コンデンセートの内部とその周囲で進む化学反応が、コンデンセート自身の構造をダイナミックに移り変わらせるふるまいとどう結びついているのかを、生物物理学・ソフトマター物理学・生化学の知見と技術を統合して解き明かしていきます。

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 ウイルスや微生物の感染に対して、さまざまな防御のしくみを張りめぐらせ、果敢に対抗しています。一方のウイルスも、その守りをかいくぐろうと素早く姿を変えていきます。攻める側と守る側、どちらも相手を出し抜こうと進化を続ける――この終わりなき追いかけっこ(軍拡競争)のなかで、細胞は精巧な免疫のしくみを磨き上げてきました。

 私たちが注目しているのは、レトロウイルスに立ち向かう宿主の側の武器です。レトロウイルスは、自分の遺伝情報を宿主のゲノムに書き込んでしまう、やっかいな相手です。これに対し、細胞はその侵入や増殖を抑え込むタンパク質を備えています。私たちは、こうした抗レトロウイルス活性をもつ宿主タンパク質を次々と同定し、それぞれがどのようなしくみで効くのかを解き明かしています。

 さらに私たちは、この攻防の関係そのものを「使う」研究にも踏み出しています。ウイルスと宿主タンパク質のあいだの巧妙な相互作用を逆手にとれば、目的のタンパク質を狙った細胞へ届ける――これまでにない新しいタイプの「タンパク質デリバリー」技術が見えてきます。私たちはこの技術を足がかりに、細胞を自在に操作する細胞工学的な手法の確立をめざした応用研究を展開しています。

 このテーマで私たちは、ウイルスと細胞のせめぎ合いを読み解く基礎研究から、その原理を医療や工学に生かす応用研究までを、一続きのものとして進めています。

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攻める側と守る側 ― ウイルスと細胞のせめぎ合い

Attack and Defense

― The Arms Race between Viruses and Their Host Cells

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